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March 2024

活躍の場を広げる無人ヘリコプタ ―制御装置の開発で農業用から災害復旧へと用途を拡大―

  • 産業用無人ヘリコプタ(RMAX G1 L201型。全長3630mm、全高1220mm、全幅:1220mm。最大離陸重量94kg)
    Photo: ヤマハ発動機株式会社
  • 機材を吊り下げ、西之島の火口付近の撮影に向かう無人ヘリ
    Photo: ヤマハ発動機株式会社
  • 世界で初めて自律飛行の無人ヘリによって観測した北海道・有珠山(うすざん)での噴火の様子 Photo: hassii.noc / PIXTA
  • 水田で薬剤を均一に散布する無人ヘリ
    Photo: ヤマハ発動機株式会社
産業用無人ヘリコプタ(RMAX G1 L201型。全長3630mm、全高1220mm、全幅:1220mm。最大離陸重量94kg) Photo: ヤマハ発動機株式会社

一般の人には操縦が難しいため、かつて普及が進まなかった産業用無人ヘリコプタ。しかし、近年、制御装置の飛躍的な進歩によって操縦が容易になり、用途の拡大が加速度的に進んだ。最近では、火山観測や災害地の情報収集、資材の運搬など、社会課題の解決に大きく貢献している。

産業用無人ヘリコプタ(以下「無人ヘリ」)は、農薬散布を主目的として1980年代半ばに開発された。無人ヘリの操縦は、機体重量による重力に対して上昇力と前進力、後退力をバランスよくコントロールする必要がある。農薬散布の場合だと、150m離れた場所から、常に変化する風や大気の影響を把握しながら機体の進路を数十㎝の精度で飛行させなければ適切に散布できなかった。このように無人ヘリは、操縦するには熟練の技を要することから、なかなか普及が進まなかった。

開発から10年後の1990年代半ばには、機体の態勢を適切に保つための姿勢制御システムの開発によって操縦性は大きく向上。さらにGPS*センサーの搭載によって、飛行中の機体の位置・速度などを検出する速度制御システムの開発によって、無人ヘリは初心者でも容易に操縦できるよう進化を遂げた。これらの進化によって、無人ヘリには、有人ヘリより低い高度を飛び、機体が小さなドローンよりも多くの薬剤を積んで長時間飛行できるという優位性が生じた。そのため、現在、日本国内で無人ヘリによる水稲への農薬散布率は40%に達している。

また、この優位性によって海外では害虫の駆除や除草剤の散布などに用途が広がりつつある。手作業による散布では害虫の繁殖に追いつかないが、上空を高く飛ぶ有人ヘリでは薬剤が周辺に飛散するリスクがあることから、無人ヘリによる散布が最も好ましいと判断されているからだという。例えば、オーストラリア領で南太平洋のノーフォーク島では、外来種の有害アリの駆逐、アメリカ・カリフォルニア州ではワイン用高級ブドウのフィロキセラ**駆除などに活用されている。

水田で薬剤を均一に散布する無人ヘリ Photo: ヤマハ発動機株式会社

一方、無人ヘリは制御システムの精緻化と並行して、火山活動が活発な土地など人が近づけない場所での業務を担うため、自律的に飛行するための制御装置開発が進められた。2000年には、北海道・有珠山(うすざん)の噴火を世界で初めて自律飛行の無人ヘリによって観測。2013年に、東京から約1,000km南の太平洋に浮かぶ火山島の西之島(にしのしま)が噴火した際には、自律飛行の無人ヘリの活用によって噴出物が堆積して陸地が形成されていく過程を克明に記録することができた。

機材を吊り下げ、西之島の火口付近の撮影に向かう無人ヘリ Photo: ヤマハ発動機株式会社

こうした成果が評価され、無人ヘリを進化させた一連の技術開発をした4名の研究者、技術者らは、2019年、「科学技術分野における文部科学大臣表彰」の科学技術賞(開発部門)を受賞した。受賞したのは、佐藤彰・静岡理工科大学教授、中西弘明・京都大学大学院講師、大川宏久(有)・アイエス社長及び中村克・ヤマハ発動機(株)ロボティクス事業部UMS統括部統括部長だ(いずれも受賞当時の役職)。

世界で初めて自律飛行の無人ヘリによって観測した北海道・有珠山(うすざん)での噴火の様子 Photo: hassii.noc / PIXTA

当初、農業への活用から始まった無人ヘリは荷物をあまり積載できなかったが、今では積載量のかなめであり、ヘリコプタの揚力を生み出す部位にあたるメインローターの直径を大きくすることにより、最大50㎏の荷物まで積載できるようになったという。今年・2024年1月に石川県に甚大な被害をもたらした令和6年能登(のと)半島地震では、道路網が寸断される中、無人ヘリは自律飛行によって被害の状況を観測するとともに、孤立地帯への緊急物資の輸送にも貢献した。

このように、無人ヘリは災害復興や遠隔地への資材運搬にまで用途が広がり、その有用性は著しく増していると言えよう。

* GPSは「Global Positioning System」の略。「全地球測位システム」、「全地球無線測位システム」とも呼ばれる。人工衛星を駆使した地理情報計測システムのこと。地上のあらゆる地域の緯度・経度、高度が特定できる仕組みとして利用されている。
** アブラムシの一種。ブドウの根や葉などに寄生して生育を妨げ、枯死させる。